臨時号
◆平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の被害にあわれました皆様へ◆
3月11日に発生しました東北地方太平洋沖地震により、
被害にあわれた皆様に心よりお見舞い申し上げるとともに、
犠牲になられた方々とご遺族の皆様に対し深くお悔やみを申し上げます。
また被災地におかれましては、一日も早く普段の生活に戻れますよう、
皆様のご無事を心よりお祈り申し上げます。
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読者の皆様
税理士の三田洋造(みた・ようぞう)と申します。
千葉県船橋市で法人形態の税理士事務所、「税理士法人三田会計」の代表社員をしております。
今回は、相続に特化した本ブログの第4回目となりますが、
前回書いてからずいぶん時間が空いてしまいました。
この間、2月15日から3月15日までの個人の所得税、贈与税の確定申告期があり、なかなか落ち着いて書く時間がなかったせいもあります。
しかし、ようやく確定申告業務も終わりが見えてきた3月11日(金)、
周知のとおり【東北太平洋沖地震】いわゆる東日本大震災が発生し、
以来、私自身もこの戦後最大と言われる大災害及び原発事故が気になって仕方がなく、ブログどころではないという気持ちに襲われていました。
ともあれ地震発生から10日以上経ち、被災地以外の地域においてはようやく落ち着きを見せ始めているように思いますし、
人々の暮らしも徐々にではありますが、震災発生以前と変わりなく普段どおりのペースに戻りつつある感じが致します。
そんなわけで当ブログも丸1カ月以上も空いてしまいましたが、今日からまた再開したいと思います。
さて、今回は臨時号ということで、今回のような「災害」が起きて、人が亡くなったときに(あるいは、生死も不明なときに)、
相続関係はどうなるのか?という点について整理してみたいと思います。
まず、基本的なことがらとして
「相続は、死亡によって開始する」(民法第882条)とあります。
したがって、ある人が亡くなったことがただちに認識される場合(ほとんど多くの「人の死」はこのケースだと思います)は、その人の家族にとって相続開始時点というのははっきりしています。
次に、災害によって死亡した場合は、「いつ」相続が開始したと言えるのでしょうか?
民法では次のような条文を置き、
「生死が不明な場合」→「失踪の宣告」→「死亡したものとみなす」という段階を経て人の死を認定しています。
(失踪の宣告)
第三十条 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
(失踪の宣告の効力)
第三十一条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
即ち、今回のような災害で人の生死が不明の場合は、まず「その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないとき」に、利害関係者の請求により、家庭裁判所が「失踪の宣告をすることができる」としており、次に
「失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。 」という2段階を経て死亡が認定されるという訳です。
具体的には、災害に巻き込まれ行方が分からない(生死がわからない)→その災害が止んでから一年間経っても生死がわからない→利害関係者(特に誰と規定はされていませんが、直接的には配偶者、子または親など。それらもいなければ親戚となるのでしょう)が家庭裁判所に請求→家庭裁判所が当該者の死亡を認定→災害が止んだときに遡及して相続が開始した、とみなされる、という事になると思われます。
一方、戸籍法では次のような条文を置き、災害などによって確実に死亡したとみられる場合には、死体を確認できない場合であっても取調をした官庁又は公署が死亡を認定することができるという事になっているようです。さらにこの場合は、戸籍簿へ記載された日をもって死亡したものと認めることとされているようです。
戸籍法
第八十九条 水難、火災その他の事変によつて死亡した者がある場合には、その取調をした官庁又は公署は、死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければならない。但し、外国又は法務省令で定める地域で死亡があつたときは、死亡者の本籍地の市町村長に死亡の報告をしなければならない。
次に、親子、または夫婦、兄弟姉妹などが同じ災害で死亡したが、誰が一番先に死亡したか分からないような場合はどうなるのでしょうか?
たとえば、大規模火災が発生し、まず親が午後3時に死亡し、その子が同日午後4時に死亡したとすれば、当該親子間で相続関係が成立します(親の財産をいったん子が相続し、子にさらに子(孫)がいれば、親から相続した財産と子自身の財産を合わせたとことで、子から孫が財産を相続することになります。
しかし、同じ災害に遭って誰がいつ死亡したか不明な場合は、民法は次の条文を置き、数人が同一の危難に遭って死亡したときは、みな同時に死亡したものと推定し、これらの者の間では相続関係は生じないこととしています。
第五節 同時死亡の推定
第三十二条の二 数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
したがって、ある親子が同一の災害に遭いどちらが先に死亡したか分からない(死亡時刻が認定できない)ような場合には、当該親から子への相続はないという事になります。
今回の東北太平洋沖地震においては、本日(平成23年3月23日)現在、死者・行方不明者合わせて2万4千人を超えているようです。
なかには親子、夫婦が共に不明といったケースも相当あると思われます。
今しばらくは死亡した方(ご遺体)の身元確認、あるいは行方不明の方の捜索(救助)活動が行われると思われますが、
今回の大災害により犠牲となられた方々のご遺族の方々におかれましては、
上記のようなことがらについていずれ考えなければならない時が到来するという点を、相続に関わる実務家としては認識しておく必要があると考えます。